プリオン病は、きわめて稀で、多くは進行の早い神経疾患です。
残念ながら、今もなお、その発症の仕組みは十分に解明されておらず、有効な治療法も確立されていません。
たとえ治療薬の候補が見つかったとしても、この病気の特殊性から、通常の方法で治験を行うことは非常に困難です。
こうした厳しい状況の中でも、治療法開発に向けて、今できる大切な取り組みがあります。
それが、「自然歴調査」への参加です。
自然歴調査は、将来の治療法の確立や治験の準備に向けて、欠かすことのできない重要な基盤となります。
このページでは、自然歴調査とは何か、そしてその意義についてご説明します。
治験薬の効果を検証するためには、患者さんを「治験薬を使用するグループ」と「有効成分を含まない薬を使用するグループ」に分けて、経過を比較する必要があります。
しかし、プリオン病の発症は、100万人に1〜2人という極めて希少な病気であり、さらに病型も多様です。そのため、充分な数の患者さんを集め、グループ分けをして比較するという一般的な治験の方法が困難なのです。
そこで必要となるのが「自然歴調査」です。
自然歴とは、「病気がどのように始まり、どのように進行していくか」という、治療を行わなかった場合の自然な経過のことを指します。自然歴が明らかになっていれば、新しい治療薬を試したときに、その効果を自然経過と比較することで、評価することが可能になります。
自然歴調査は、JACOP(Japan Consortium of Prion disease)というプリオン病の臨床研究を行うための全国組織が行っています。
通常は、診察された医療施設の先生が、患者さんをご紹介くださるという形で、この調査研究が開始されます。
あるいは、患者さんが主体となって、主治医の先生のご支援をいただきながら、この調査研究に参加していただく方法もあります。ご参加を希望される患者さん、またはそのご家族の方は、プリオン病サーベイランス事務局にご連絡ください。
病状により異なりますが、入院または外来で一定の間隔ごとに診察や必要な検査を受け、その結果をもとに担当医師などが調査票に記入します。
また、病状の変化を継続的に把握するため、臨床研究コーディネーター(CRC)が定期的に電話などで病状を確認させていただきます。
調査には継続的なご協力が必要となりますが、患者さんの病状や環境の変化により主治医が変わるなどして、調査が中断されてしまうことも少なくありません。そうした中でも、できる限り継続してご協力いただくことで、より信頼性の高いデータが得られ、治療法開発に大きく貢献することができます。
現在、多くの医師や研究者が、それぞれの立場からプリオン病の解明と治療法の確立に向けて取り組んでいます。
自然歴調査へのご協力は、将来の治験や治療薬の開発を支える大切な基盤です。こうした調査を少しずつ積み重ねていくことが、未来の治療法につながります。皆さまお一人おひとりのご協力が、同じ病と向き合う方々やご家族にとって、大きな希望となることでしょう。